この記事では、樋口一葉の小説『この子』のあらすじと感想、そして解説を書いています。婦人雑誌に掲載され、文章読解力が低い当時の女性読者にもわかるような平易な言葉でかかれているため、それほど文学性はない作品ですが、「生まれてきた子供は何であれかわいい」という人の真理が響く作品になっています。
樋口一葉『この子』の概要
主人公の山口実子は、夫婦仲が冷え切ったころに子供を授かり、育てていく。生まれた当初は憎しみさえ覚えたこの子であるが、その後心境の変化が現れます。
「この子」とはまさに主人公の子供のことであり、夫婦と母子の関係性と心情の変化が描かれています。
「日本の家庭」という雑誌に掲載されたこの小説は、「文字に乏しい女性にも、容易に読ませるため極めて平易な文で有益なことを分かりやすく説明する」ということを編集方針としていたため、『この子』もその方針に則り、平易かつわかりやすい小説となっています。
樋口一葉『この子』の人物相関図
『この子』は主人公である山口実子の1人称で、子供が産まれる前から、子供が産まれた後の今現在までを回想する形で物語は進みます。
短編小説ですので登場人物は少なく、主人公と夫のやりとりが殆どになります。
樋口一葉『この子』のあらすじ
主人公である「山口実子」の心情がひたすら吐露されることで物語は進んでいきます。
「口に出して我が子がかわいいなんて言ったら、きっと大笑いされますね。ええ、誰だって我が子が憎いなんてことはありません。」
冒頭ではこう始まる『この子』ですが、子供が誕生した時は「ああなぜ丈夫で産まれてくれたんだろう、この子さえ死んでくれれば、あたしは産後すぐにでも実家へ帰ってしまうのに」と子供が誕生したことに憎しみすら覚える実子。
3年前、山口家へ、裁判官である山口昇の嫁に来たときは夫婦仲も良好であったが、お互いの「馴れ」によりわがままの生地が出てくるに至り、夫婦仲は険悪なものとなっていきます。
子供が産まれてこようというとき、まだ霧に包まれた状態であった実子ですが、一方で「かわいい、いとしい」とうことは産声をあげたときからなんとなく身に染みていたと吐露する実子。
夫との仲たがいも子供が産まれることにより良好なものとなり、「あたしが良くすれば主人も良くしてくれます。三つ子に浅瀬というたとえがありますが、あたしの身の一生を教えたのは、まだものをいわない赤ん坊でした」という言葉で物語は締まります。
樋口一葉『この子』の感想
「婦人誌に掲載された小説だった」と聞けば「なるほど」と思うほど、平易かつ女性に向けた内容になっています。悪くなった夫婦仲が子供の誕生により修繕されるという、世の中にありがちな出来事を描き、当時の女性たちの共感を得たのだろうという推測ができます。
言い方を変えれば、当時の女性たちの内なる声を樋口一葉が小説という媒体を経由して代弁したものとも言えます。
夫に対する不満や、子供が産まれたことに対する不安を後から反省を含めて振り返ることにより、同じような悩みを抱えていた当時の女性たちにシンパシーと安心感を与えたのだろうと感じます。
樋口一葉『この子』をより深く味わうには
以上で『この子』の紹介は終わりです。
樋口一葉の人生や時代背景について知ることができれば、『この子』もより深く理解できるようになると思います。別途記事にしていますのでご参照よろしくおねがいします。