この記事では明治時代の女流作家、樋口一葉の作品の特徴を解説しています。
樋口一葉は女性ならではの視点から、明治時代に蔓延していた女性蔑視の風潮を恋愛や血縁を絡めながら小説にしました。明治時代と女性という組み合わせが数々の名作を生みだしたといって良いでしょう。
樋口一葉の作品の特徴は?
樋口一葉といえば『たけくらべ』が有名ですが、樋口一葉は24歳の若さで他界するまでに小説としては22作品を発表しています。
『たけくらべ』はお互いを意識する子供がお互いの身分の違いや進むべき道が決まっていたことから、別離の道を選択するという切ないながらも綺麗な話です。
しかしながら樋口一葉が多数の小説で描いていたのは
- 男女の恋愛模様がもたらす悲劇
- 制度や家庭内での不遇さがもたらす女性の悲劇
です。具体的に見ていきたいと思います。
樋口一葉の作品を超簡単に全部解説
樋口一葉の作品の特徴を掴むために、まずは樋口一葉の小説作品をめちゃくちゃ簡単に説明していきたいと思い、次のような表にしてみました。
作品の題名 | 概要 |
闇桜 | 恋を知った女性が病んで死に至る |
たま襷 | 二人の男性から言い寄られた女性が悩んで死ぬ |
別れ霜 | 親の策略で、絶望した相思相愛の男女が両方死ぬ |
五月雨 | 二人の女性に言い寄られた男性が出家する |
経つくえ | 親しくしてもらっていた男性が死に、塞ぎこむ |
うもれ木 | 時代遅れの芸術家が絶望して、作品を叩き割る |
暁月夜 | 恋愛を拒絶する女性が、心を開きその理由を男に吐露する |
雪の日 | 駆け落ちした女性が駆け落ち当時を振り返るが、後悔しかない |
琴の音 | 非行少年が琴の音で改心する |
花ごもり | お家のために他の女性と結婚した男にフラれるが、それでも想い続ける |
やみ夜 | 裏切った元恋人を他の男に殺害させようとする |
大つごもり | 奉公先の家からお金を盗んだが、その家の息子が助けてくれた |
たけくらべ | お互いを意識する少年少女がそれぞれの道を歩むため別れる |
軒もる月 | お金持ちに言い寄られる人妻が葛藤する |
ゆく雲 | 好きだと言ってくれた男性が遠距離になり、疎遠になっていく |
うつせみ | 気の狂った女性の素性が明らかにされていく |
にごりえ | 風俗嬢が昔の客に殺される |
十三夜 | 女性がDVを受けるも子供のために離婚を思いとどまる |
この子 | 子供は生まれてみると可愛いものだ |
わかれ道 | 家族同然だった女性が妾になることを選び、絶望する |
裏紫 | 未完の作品。不倫をしようとする女性を描く |
われから | 不倫している夫に、不倫の疑いをかけられ家を追い出される |
いかがでしょうか?
だいたいロクな結末が待っていませんねw小説ってそういうものなのかも知れませんがw
樋口一葉の作品の特徴は?
樋口一葉が小説になって最初の頃は、恋愛を主題とした作品を発表しておりそれほど評価は高くなかったようです。実際読んでみても男女が悩んで悲劇的な結末を迎えるだけの話ばかりですからね。
しかし『大つごもり』からの作品は「奇跡の14か月」と呼ばれ、後に大きな評価を受ける作品がこの期間に集中しています。樋口一葉も年齢を重ねるにつれ、吉原(風俗街)の近くで自営業を営んだり、相場師の元へ弟子入りを試みたり、その相場師から借金の見返りに体の関係を迫られたりなど多様な経験を重ねたことがこうした傑作を生むことになったと言われています。実際に樋口一葉は後期の作品の方が圧倒的に話に深みがあり、読んでいて引き込まれるものがあります。
改めて表を見てみるとほとんどの小説で男女の仲や恋愛が絡み、そこに家族のしがらみなどが加わっています。ここにキーワードである「恋愛と、家庭や制度上の女性への冷遇」が浮かび上がってきます。
明治時代の女性は身分が低く、特に家庭内に入ってしまえば女性は男性を支えるものであるという固定観念がありました。それを特徴付けるものとして、明治時代には「妾制度」というものがありました。
「妾」とは現代で言えば愛人のことですが、明治時代の愛人は国が公認していたのです。
現在の日本で愛人をつくればそれは不倫と言われ一般的には非難の的になります。しかし明治時代の「妾」の場合は法的に問題はなく、むしろ妾を養うことは男の甲斐性とまで言われていたのです。ただ、結婚した女性が男性と不倫を行った場合「姦通罪」となり刑法違反となったのです。現代では男女ともに不倫したことによる刑罰はありませんが、明治時代は女性の不倫のみが刑罰対象となり、警察のお世話になる可能性があったわけですね。
樋口一葉の小説でも「妾」はたびたび出てくるキーワードであり樋口一葉は「妾」に代表される、明治時代の女性の不遇さを小説を通して訴えていたわけです。
樋口一葉の作品に影響を与えた男性たち
樋口一葉は恋愛をテーマに作品を発表することが多かったのですが、現実では男性たちからどのような影響を受けていたのでしょうか?
樋口一葉の小説に影響を与えたと言われる男性は次の3人です。
- 渋谷三郎
- 半井桃水
- 久佐賀義孝
渋谷三郎
渋谷三郎は樋口一葉の許嫁でした。
「でした」というのは、一葉の父親が亡くなり樋口一葉が借金を背負ったことがわかると、婚約を一方的に破棄してしまったからですね。酷い話だと思われるかもしれませんが、渋谷三郎自身の考えというよりは、渋谷家全体として一葉との婚約は破棄する結論に至ったようです。
半井桃水
半井桃水は樋口一葉の小説家の師匠であると同時に、恋愛関係にもありました。
しかしながら樋口一葉を半井桃水に紹介した人物の妨害に合い(半井桃水が女性を妊娠させたという噂を立てらえた)、一時期は絶縁関係となってしまいます。
久佐賀義孝
久佐賀義孝は相場師・易学者・実業家の肩書を持つ人物で、借金に苦しむ樋口一葉は久佐賀義孝を相場師になるために訪問しています。
相場師にはなれなかった樋口一葉ですが、久佐賀義孝から多額の借金をすることに成功。しかしその見返りに体を求められます。
実際に体を売ったのかは定かではありませんが久佐賀義孝との出会いと奇跡の14か月が一致するため、樋口一葉の小説は久佐賀義孝との体験によって昇華されたと見られています。
樋口一葉の作品の特徴についてまとめる
ここまでの話を簡単にまとめてみましょう。
- 樋口一葉は不当な差別を受けていた明治時代の女性の境遇を嘆いており、その叫びを小説に投影させた。
- 若い女性ということもありテーマとしては恋愛を絡めるものが多く、実生活では渋谷三郎・半井桃水・久佐賀義孝らとの交流を経て作品に深みを増していった。
樋口一葉についてのより深い解説は別途記事にしています。渋谷三郎・半井桃水・久佐賀義孝との関係も詳しく書いていますのでご参照お願い致します。