この記事では、樋口一葉の小説『闇桜』のあらすじと感想、そして解説を書いています。兄妹のような仲睦まじい関係にあった二人の男女ですが、あることをきっかけに男女を意識するようになり、そのことが悲劇へと繋がっていきます。
樋口一葉『闇桜』の概要
樋口一葉の処女作。
樋口一葉の師匠でもあり、後に恋仲になったとされる半井桃水に相談しながら完成された作品です。
『闇桜』という題名はこの小説の最後「風もなき軒端の桜ほろほろとこぼれて夕やみの空鐘の音なし」に由来しています。恋に由来する苦しさを「闇」と表現する技法は古典文学ではよくある表現です。
樋口一葉『闇桜』人物相関図
『闇桜』で登場する主な人物は2人。
中村家の千代と園田家の良之助です。二人は当初、兄弟のような関係だったのですが、あることを契機に千代が良之助を男性として意識してしまうことから悲劇に繋がっていきます。
樋口一葉『闇桜』のあらすじ
垣根で隔てらているが、同じ井戸の水と軒先に咲く同じ梅の木を眺めて暮らしている中村家と園田家。
昨年園田家の主が亡くなり、それを継いだのは22歳の大学生良之助でした。一方の中村家は一人娘がおり、名前は千代。16歳の学生です。近隣でうわさされるほど器量の良い学生ですが、良之助にとってはかわいい妹のようであり、千代も良之助を兄のように甘えています。
子供の頃のように無邪気に喧嘩をし、遊べる仲の良い二人です。
ある日の夕暮れ、縁日に出かける二人。
そこで千代はいつもどおり良之助と談笑をしながら縁日を楽しみますが、その様子を背後から見ているものがいました。それは千代の学友でした。学友たちは「おむつましい(仲が良い)こと」と声をかけて、笑いながら去って行きます。赧然(はなじろ
「千代ちゃん、あれは何だ。学校の友達か?随分乱暴な連中だね」とつぶやく良之助に対し、赧然(はなじろ)むお千代。
この時を境に千代は良之助を男性として意識するようになり、苦しい日々が始まるのでした。女性として良之助にどう見られているかを気にするあまり、良之助の顔も見られれなくなってしまいます。日に日にやつれていく千代は遂に病気となってします。
千代の恋煩いの相手が自分だと気づいた良之助でしたが、気づいたときはもうすでに千代の病状は取り返しのつかないことになっていました。千代の病状は進行し、良之助の目には今晩持たないのではないかと思われるほどでした。
千代は形見の指輪を良之助に手渡し「お詫びは明日」と言い残すのであった。
軒端の桜がほろほろ闇に散り、鳴り響く寺の鐘が響き渡った。
樋口一葉『闇桜』感想と解説
現代の感覚からすると恋に身を焦がして病気になり死んでしまうということは、あまり考えられないことなのです。しかし、男女関係のもつれから自殺する人も令和の時代にもいるわけでして、そう考えるとこの小説が発売されて以来100年以上経ってもなお、我々は男女関係で命のやりとりを行っていることになります。
良好な兄弟関係であった千代と良之助ですが、同級生から冷やかされることで、千代が良之助を男性として意識してしまうことになります。
一方良之助はそれに気づかず、気づいたときにはもう手遅れになっているという何とも切ないお話です。
この話が現実的かどうかはさておき、恋は楽しいことばかりではなく、恋に由来する苦しみも当然あります。その苦しみを「闇」と樋口一葉は表現し、バッドエンドでこの物語は終わりを迎えます。この作品を通して、人の気持ち、特に恋愛を意識した時の心の揺れの難しさを感じざるを得ませんでした。
樋口一葉『闇桜』をより深く味わうには
以上で『闇桜』の紹介は終わりです。
樋口一葉の人生や時代背景について知ることができれば、『闇桜』もより深く理解できるようになると思います。別途記事にしていますのでご参照よろしくおねがいします。