この記事では、樋口一葉の小説『裏紫』のあらすじと感想、そして解説を書いています。この小説では、樋口一葉の作品としては初めて女性の不倫がテーマとなっているのですが、一葉の死により物語は未完のままです。
樋口一葉『裏紫』の概要
この『裏紫』は未完の作品です。完成前に樋口一葉が結核で他界してしまったためですね。
うらむらさきの題名は、「詞歌和歌集」の和歌「とはぬ間をうらむらさきに咲く藤の何とて松にかかりそめけん(訪れない間を恨んで過ごさないといけないのに、どうしてこんなに待たせてばかりの人と関りを持ってしまったのでしょう)」から来ているものと思われます。
裏紫は「うらむ」という言葉を含んでいるため「恨む」にかけて使用される言葉ですね。
樋口一葉の小説「裏紫」では主人公である人妻が、家庭の外で男を作り、背徳感を感じながらもその男と密会(不倫)する物語となっています。
樋口一葉『裏紫』の人物相関図
登場人物はお律と小松原東二郎、そして不倫相手の吉岡です。
吉岡はお律の回想でしか出てこないため、実質的にはお律と小松原東二郎だけです。
樋口一葉『裏紫』のあらすじ
「お律」は金持ちの西洋小間物の店主小松原東二郎の妻です。
物語は、家に「お律」の姉から一通の手紙が届く場面から始まります。
「姉が心配事があるから来てほしい」という手紙の内容を受けて、旦那の東二郎は「行ってみたらいいじゃないか」と優しく「お律」を送り出すのでした。
しかし、その手紙の内容は嘘。「お律」は外で他の男と密会をしようとしているのでした。
「人間としたって女としたって、最低の最低」と自分に問いかける「お律」。
行くのはよそうか。よした方がいいだろうか。そう迷い引き返そうとする「お律」。しかしその瞬間、夜風がお律の身に沁み、夢のような考えは、ふっと吹き破られるのでした。
「悪人だって不倫だって、かまわない。こんなあたしがいやなのだったら、東二郎さん、捨てればいいのよ。すてられちゃえばかえって本望だ」
そう思い、お律は5、6歩駆け出すのでした。
樋口一葉『裏紫』の感想と解説
未完の作品ですので、その後お律自身、そして夫である東二郎との関係がどのようになってしまったのかはわかりません。
樋口一葉の作品は、貧困や婚姻の制度上のため、身動きが取れなくなってしまった女性の姿を描くことが多いのですが、この『裏紫』に関しては優しい夫に対して大きな不満を抱えているわけではありません。
しかし、お律は不倫に走ります。
お律は倫理感が強いため、違う男と密会して道から外れてしまう自分を責めます。もし不倫がバレてしまえば、これから出世を控える「東二郎」は「一生を真っ暗闇に突き落とす」ことになります。ですので、密会しようとする時も一度引き返そうとします。
しかし夜風に吹かれてその「夢のような考え」つまり「倫理観に従い行動する自分」は吹き飛んでしまいます。
自分の意思で倫理を打ち破り行動することを決意し、「不倫をする自分=反社会的な自分」というアイデンティティーを確立したのでると考えられます。
樋口一葉『裏紫』をより深く味わうには
以上で『裏紫』の紹介は終わりです。
樋口一葉の人生や時代背景について知ることができれば、『裏紫』もより深く理解できるようになると思います。別途記事にしていますのでご参照よろしくおねがいします。