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樋口一葉『わかれ道』のあらすじと感想|疑似兄妹の破滅

投稿日:2019年6月30日 更新日:

わかれ道

この記事では、樋口一葉の小説『わかれ道』のあらすじと感想、そして解説を書いています。身寄りのない男と、その男を弟のようにかわいがる女。しかし、二人の『わかれ道』は唐突にやってきます。

樋口一葉『わかれ道』の概要

わかれ道とはこの小説の主要人物である「吉三」と「お京」のわかれを指しますが、それだけではなく樋口一葉の人生の岐路も含む「わかれ道」でもあると言われています。

樋口一葉の人生の岐路は、相場師である「久佐賀義孝」との出会いです。久佐賀との出会いにより樋口一葉の小説が想像力豊かなものになり、それが小説中のお京に投影されている(最終的にお京は妾(愛人)の道を歩む)と言われています。

樋口一葉『わかれ道』人物相関図

『わかれ道』の主要人物は二人。

自分の出生が分からない孤児の吉三と、その吉三を本当の弟のようにかわいがるお京です。

わかれ道人物相関図

 

樋口一葉『わかれ道』のあらすじ

一寸法師というあだ名がつく町の暴れ者、傘家の「吉三」。年齢は16歳だが、その身長のせいか11歳くらいにしか見えない。

その吉三が夜中に訪ねたのは、長屋で働く「お京」。二十歳を過ぎた粋な女である。

吉三は両親も親類もおらず、その出生すらわからない。6年前に傘屋の女主人(お松)に拾われて傘の油引きの職に就いている。

吉三はお京に「あなたみたいな人が俺の真尾の姉さんだったら最高だね」と血のつながりを訴えます。そしてその出生の不明瞭さからか「俺は出世と無縁、このまま傘屋で油匹が一番良い」と自分を卑下するのでした。

そんな吉三に「親が無くても兄弟がどうでも、自分一人出世すれば文句ない」と励ますお京。

吉三が拾われて2年後、恩人であるお松(傘屋の女主人)は亡くなったが、傘屋を死に場所と決めている吉三。新しい主人やその息子が気にくわないからと言って他所へ行くわけにはいかない。同僚の鼻たれ連中には家族がいないことを馬鹿にされ、誰も慰めてくれないから町内で乱暴になってしまう。誰か優しく言葉を掛けてくれる人がいれば、しがみついて離れがたく思うだろう。

お京は今年の春からこの裏へと引っ越してきたが、物事に才気が利き評判も良い。「お京さん、お京さん」と吉三が入り浸るのを周りの職人はからかうが、「夜でも夜中でも、傘屋の吉が来たと言えば手を取られて引き入れられる者が他にいるもんかね?」と吉三は言い返すのであった。

12月30日の夜、吉三が得意先からの帰宅途中、何者かが両目で目隠しをしてきた。吉三はすぐにお京と気づくが、お京はいつもと違う上品な身なり。

「明日、あの裏から引っ越す。私も不意のことでまだ信じられないの。でも悪いことじゃないの」

と突然の別れを告げます。

「嫌だ、俺はいらない」そう抵抗する吉三ですが、「そんなに行きたいわけじゃない、けど行かなきゃならない」と返すお京。

どうやら名邸に妾としていく(出世する)ことが決まっている様子です。

「俺は全く不運すぎる。傘屋の先代の婆さんは死ぬし、かわいがってくれたお絹さんも嫁に行くのが嫌で井戸に身投げした。あんたは不人情で俺を捨てていく。何が傘屋の油引きだ。朝から晩まで一寸法師と言われる。お京さんだけは人の妾にでるような腸の腐った人ではないと言い張っていたのに。もうお京さんには逢わないよ」そう突き放す吉三。

「あたしがここを離れるからってあんたを見捨てたりしない。あたしは本当に弟だと思っている」そう背後から羽交い絞めに抱きしめるお京。

吉三は涙で潤む眼を向けてなす術なく「お京さん、お願いだ、どうかこの手を放してください」と言うだけである。

樋口一葉『わかれ道』の解説と感想

身寄りがない、とうよりも自分の出生理由もわからない吉三ですので、親切にしてくれた人に家族としての役割を抱いてしまうのは無理のないところです。

自分を拾ってくれた傘屋のお松が他界して以来、仕事仲間には「一寸法師」とバカにされ、仕事で出世を目指すかと問われれば「傘屋で油引きをしているのが一番良い」と答えるわけですから、吉三は人生の目的や自身のアイデンティーが欠落しているわけです。

そこへ、自分のことを良くしてくれる「お京」があらわれます。その様子は本当の兄弟のようであり、物語の最後部分でお京は「本当に弟だと思っている」とまで言うわけです。

しかしながら(詳しい理由は読者にはわからないのですが)、お京は「行かなきゃならない」という理由により吉三を置いて妾への道を進むわけです。

お京が現在の仕事に飽きてしまったのか、「出世」の道を選んだのか、本当に行かなければいけない理由があったのかはわかりませんが、吉三はそれを「裏切られた」と感じでしまうわけですね。

吉三にとってはお京が唯一の肉親のようなものであったわけですから、なんとも救いようのないお話だと言えます。

吉三は出世の道をあきらめて傘の油引きの仕事を続けることを決めてしまっているので、今後の人生において吉三は妾に出たお京と道を交えることはないのでしょう。

出世をあきらめて現状に留まることを決めた吉三と、妾になることを決めたお京。まさに今日が二人の『わかれ道』となったわけです。

『わかれ道』をより深く味わうには

以上で『わかれ道』の感想は終わりです。

樋口一葉の人生や時代背景について知ることができれば、『わかれ道』もより深く理解できるようになると思います。別途記事にしていますのでご参照よろしくおねがいします。

樋口一葉|明治を生きた天才・貧乏女流作家の人生|意外な男性遍歴とは?

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