この記事では、樋口一葉の小説『やみ夜』のあらすじと感想、そして解説を書いています。この物語に登場する主要人物3人の闇、そして社会の闇がこの小説によって浮かび上がります。
樋口一葉『やみ夜』人物相関図
『やみ夜』では、闇に飲み込まれた登場人物が3人います。
一人目は主人公である松川蘭
二人目は松川蘭の元恋人である、波崎漂
三人目は松川蘭に惹かれる高木直次郎です。
樋口一葉『やみ夜』の概要
やみ夜はその題名からイメージが沸くように、非常に暗い物語になっています。
自分の利益だけを得るために行動する男の「闇」、そしてそれを憎む主人公自身の「闇」、その主人公を好きになってしまう男の「闇」、そして不正が横行する世間の「闇」。
樋口一葉はそれらをひとまとめに『やみ夜』として題名に反映させています。
樋口一葉『やみ夜』のあらすじ
廃邸の女主人松川蘭が主人公。
物語は廃邸の門前で車にはねられた若者、高木直次郎が松川家に運ばれてくるところから始まります。
介抱をする欄に対し、親はすでに亡く門外へ捨ててくれと懇願する直次郎。直次郎はすでに身寄りもなく、仕事も長続きしない。
怪我から回復後、居候となった直次郎は松川家の謎を知るにつれ、お蘭の運命に飲み込まれていきます。
欄の父親は8年前、投機に失敗して庭の池に入水自殺。残ったのはお蘭一人で、負債もありこの廃邸も他人のものだとか。
同じく父を早くに亡くした直次郎は、お蘭の身の上に自らの苦心を重ねます。
欄の恋人だった代議士波崎漂は松川家の犠牲の上で成功したにもかかわらず、落ちぶれると松川家に寄り付かなくなった。
25歳になるまで波崎を待ち続けた欄でしたが、この波崎の行動に恨みを抱いている様子。
「私も父の子、やってのける。悪ならば悪でいい」そう言い放つ欄に惹かれていく直次郎。
ある日、波崎から欄あてに久々に手紙が届きますが、欄を愛人にしようとする波崎の魂胆を見抜いた欄は冷ややかな笑みを浮かべます。
強い恋情を欄にぶつける直次郎。「大恩があるあなたの恋人(波崎)がうらめしい。私は死ぬしかない」という直次郎。
その直次郎に対して、欄は「命を差し出して松川家の遺志を継ぎ、波崎を殺害してほしい」とあふれる涙を袖で拭います。そして実は松川家の門前で直次郎を車で跳ねたのも、波崎であることがわかります。
闇の中で結びつくことを決意した直次郎はある冬の日、波崎を襲いますが失敗、行方不明となります。その事件から3か月後、松川亭は修繕され、持ち主も変わることとなります。
直次郎、欄の行方はだれもわからず、物語は終了します。
樋口一葉『やみ夜』の解説と感想
物語としては、松川家を裏切った波崎を恨む松川欄の闇を中心に、その闇に飲み込まれた直次郎を絡めて話は進みます。
元恋人であった波崎を殺害しようとするのですが、その復讐は失敗に終わり、その後3人がどうなったのかはわかりません。
松川欄は、松川家を踏み台にした波崎を恨むわけですが、それは同時に社会悪(闇)への怒りです。波崎は代議士でもありますし、国や社会を形成する代表者でもありますしね。
社会から投げ出された欄と直次郎は、波崎を殺そうと目論みますが、結局それは失敗に終わります。世の中には様々な悪がはびこっており、それらを駆逐しきることは難しく、波崎殺害の失敗したことはその象徴と言えます。
樋口一葉自身、父親の借金により(しかも父親は騙されて借金を背負った)貧困に窮する生活を強いられたこともあり、努力が報われない社会、特に社会悪への思いがこの作品を生み出したと考えられます。
しかしながら残念なことにこの『やみ夜』は一般的に低調で不可解な作品とされ、酷評が多い作品となっています。欄と直次郎が両親を早くに亡くし、社会的支援のないまま孤立する境遇を「闇」と感じるまでは非常に良くできた物語であると感じられますが、波崎殺害失敗から欄と直次郎の失踪まで1ページ程度で語られており、急に物語が閉じた感は否めません。
樋口一葉『やみ夜』をより深く味わうには
以上で『やみ夜』の感想は終わりです。
樋口一葉の人生や時代背景について知ることができれば、『やみ夜』もより深く理解できるようになると思います。別途記事にしていますのでご参照よろしくおねがいします。