< 樋口一葉『裏紫』のあらすじと感想|不倫か倫理か | 世界の偉人たち

世界の偉人たち

現在と未来を創った人々の功績と人物像を紹介します

樋口一葉の作品

樋口一葉『裏紫』のあらすじと感想|不倫か倫理か

投稿日:2019年6月15日 更新日:

仲の悪い夫婦

この記事では、樋口一葉の小説『裏紫』のあらすじと感想、そして解説を書いています。この小説では、樋口一葉の作品としては初めて女性の不倫がテーマとなっているのですが、一葉の死により物語は未完のままです。

樋口一葉『裏紫』の概要

この『裏紫』は未完の作品です。完成前に樋口一葉が結核で他界してしまったためですね。

うらむらさきの題名は、「詞歌和歌集」の和歌「とはぬ間をうらむらさきに咲く藤の何とて松にかかりそめけん(訪れない間を恨んで過ごさないといけないのに、どうしてこんなに待たせてばかりの人と関りを持ってしまったのでしょう)」から来ているものと思われます。

裏紫は「うらむ」という言葉を含んでいるため「恨む」にかけて使用される言葉ですね。

樋口一葉の小説「裏紫」では主人公である人妻が、家庭の外で男を作り、背徳感を感じながらもその男と密会(不倫)する物語となっています。

樋口一葉『裏紫』の人物相関図

登場人物はお律と小松原東二郎、そして不倫相手の吉岡です。

吉岡はお律の回想でしか出てこないため、実質的にはお律と小松原東二郎だけです。

裏紫人物相関図

樋口一葉『裏紫』のあらすじ

「お律」は金持ちの西洋小間物の店主小松原東二郎の妻です。

物語は、家に「お律」の姉から一通の手紙が届く場面から始まります。

「姉が心配事があるから来てほしい」という手紙の内容を受けて、旦那の東二郎は「行ってみたらいいじゃないか」と優しく「お律」を送り出すのでした。

しかし、その手紙の内容は嘘。「お律」は外で他の男と密会をしようとしているのでした。

「人間としたって女としたって、最低の最低」と自分に問いかける「お律」。

行くのはよそうか。よした方がいいだろうか。そう迷い引き返そうとする「お律」。しかしその瞬間、夜風がお律の身に沁み、夢のような考えは、ふっと吹き破られるのでした。

「悪人だって不倫だって、かまわない。こんなあたしがいやなのだったら、東二郎さん、捨てればいいのよ。すてられちゃえばかえって本望だ」

そう思い、お律は5、6歩駆け出すのでした。

樋口一葉『裏紫』の感想と解説

未完の作品ですので、その後お律自身、そして夫である東二郎との関係がどのようになってしまったのかはわかりません。

樋口一葉の作品は、貧困や婚姻の制度上のため、身動きが取れなくなってしまった女性の姿を描くことが多いのですが、この『裏紫』に関しては優しい夫に対して大きな不満を抱えているわけではありません。

しかし、お律は不倫に走ります。

お律は倫理感が強いため、違う男と密会して道から外れてしまう自分を責めます。もし不倫がバレてしまえば、これから出世を控える「東二郎」は「一生を真っ暗闇に突き落とす」ことになります。ですので、密会しようとする時も一度引き返そうとします。

しかし夜風に吹かれてその「夢のような考え」つまり「倫理観に従い行動する自分」は吹き飛んでしまいます。

自分の意思で倫理を打ち破り行動することを決意し、「不倫をする自分=反社会的な自分」というアイデンティティーを確立したのでると考えられます。

樋口一葉『裏紫』をより深く味わうには

以上で『裏紫』の紹介は終わりです。

樋口一葉の人生や時代背景について知ることができれば、『裏紫』もより深く理解できるようになると思います。別途記事にしていますのでご参照よろしくおねがいします。

樋口一葉|明治を生きた天才・貧乏女流作家の人生|意外な男性遍歴とは?

-樋口一葉の作品
-

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

あじさい

樋口一葉『五月雨』のあらすじと感想|恋は五月雨に濡れる

この記事では、樋口一葉の小説『五月雨』のあらすじと感想、そして解説を書いています。二人の女性に愛された男性。しかしその二人にそれぞれ情を抱いた杉原三郎は、どのような決断をくだしたのでしょうか? Con …

わかれ道

樋口一葉『わかれ道』のあらすじと感想|疑似兄妹の破滅

この記事では、樋口一葉の小説『わかれ道』のあらすじと感想、そして解説を書いています。身寄りのない男と、その男を弟のようにかわいがる女。しかし、二人の『わかれ道』は唐突にやってきます。 Contents …

たけくらべ

樋口一葉「たけくらべ」のあらすじと感想|結末が悲しく美しい

この記事では樋口一葉の代表作である『たけくらべ』のあらすじと感想、そして解説を書いています。樋口一葉の作品で最も有名であり、よくできた余韻の残る作品です。有名であるが故に「たけくらべ論争」などが沸き起 …

樋口一葉有名作品

樋口一葉の小説で有名なのって何があるの?上位4つ紹介します

この記事では明治時代の女流小説家樋口一葉の作品のうち、読むのをオススメする上位4作品を紹介していきます。 樋口一葉は短命(24歳で結核のため他界)でしたが、後世に残る優れた作品を多数発表しています。そ …

霜

樋口一葉『別れ霜』のあらすじと感想|死別して7年後の決意

この記事では、樋口一葉の小説『別れ霜』のあらすじと感想、そして解説を書いています。親の策略により引き裂かれた相思相愛の男女。二人は死を選びますが、女は生き残ります。生き残った女は監視の元、死ぬことを許 …


管理人のshibaです。

このサイトでは、日本を含む世界中の偉人たちの(時には偉人ではない人も)功績と人物像を紹介していきます。