この記事では、樋口一葉の小説『うもれ木』のあらすじと感想、そして解説を書いています。時代の潮流に取り残された絵師、入江籟三とそれを支える妹のお蝶。二人に救いの手が差し伸べられ、物語は好転をしたかのように思われますが・・。
樋口一葉『うもれ木』の概要
「うもれ木」という語の本来の意味は、樹木が水中や土中に埋もれて化石化したもののことです。
この小説では、その時代にはすでに必要とされなくなってしまった技術をもった主人公のことを指し、世の中から見捨てられて頼るものがいない境遇の者の比喩として使われています。
樋口一葉の兄である樋口虎之助は薩摩焼の絵師をしており(虎之助は『うもれ木』となることなく絵師として立派に生計を立てましたが)、虎之助に絵師についての技術面を学びながらこの小説は完成されました。
また、この作品では小説家の幸田露伴の作風を研究した様子がうかがえ、幸田露伴の文体や発想が小説内に見られることが特徴的です。
樋口一葉『うもれ木』の人物相関図
この物語の主人公は売れない絵師である、入江籟三。
かつての弟分である篠原から資金提供を受けます。
そして、その妹であるお蝶は篠原が将来の夫となる予兆を感じるのですが・・・。
樋口一葉『うもれ木』のあらすじ
主人公は薩摩焼陶器の絵師・入江籟三(29歳)。両親はすでになく、妹のお蝶(17歳)と二人暮らしである。
「自分が志す薩摩焼の名は全く地に落ちてしまった」と嘆きながら日々を過ごしています。結局はお金がモノを言うご時世、問屋受けの良い商品だけがありがたがれる世の中です。
いつの日か後援者が現れてくれると信じるが、後世に名を残す名作を作り上げたいという夢を捨てきれず、妹お蝶の助けを支えに日々を暮らしている。
ある夏の日、かつての弟分の篠原辰雄に出会う。篠原はかつて師匠の持ち金を持ち逃げし、師匠の臨終の際にも姿を見せなかった男。最初は篠原を怒鳴る籟三でしたが、改心した様子を見せる篠原に心を許します。
辰雄は現在巨額の富を持つ資産家で、籟三に資金を提供する。
籟三は生活のすべてを捧げて花瓶の制作に取り掛かります。
一方、以前道端で借金の返済に苦慮する老婆を助けたのが辰雄であると思いだしたお蝶は、辰雄に恋心を抱くのでした。
翌春、籟三はかつてから制作に励んでいた花瓶が完成し、それを辰雄に報告しに行きます。しかし、辰雄は自分たちの詐欺計画のために入江兄妹を利用しようとしていることを偶然知ってしまう。
そのころお蝶は、辰雄から野望のために有力者への貢物となるよう頼まれる。辰雄に対する恋慕の想いと辰雄の願いに挟まれ、とるべき道は死のみと思えたお蝶は「病で死ぬのも恋で死ぬのも命はひとつ」と、死の道を選んでしまうのでした。
残された籟三は、お蝶を失った悲しみと裏切られた無念の思いに涙を流す。
全て自分が芸術に傾倒してしまったせいであると後悔をし、完成した花瓶を「いざ共に行かん」と叩き割るのであった。
樋口一葉『うもれ木』の感想
なかなかテーマが深くて面白いお話です。
これまでの樋口一葉は男女の恋愛模様を主体にした小説でしたが、この『うもれ木』はタイトルが内容を表しているように、才能を時代に潰された男の話が中心となっています。潰されたというよりは、時代が変化し、才能を活かせる場所を失ったというべきかもしれませんが。
そしてかつての弟子であった篠原に資金提供を受け、再起を図るわけですが、結局その資金提供は籟三を裏切るための罠だったのです。
妹のお蝶は篠原に惚れており、その裏切りを知り、死を決意します。
妹を失った籟三に残されたのは、完成した芸術品である花瓶のみ。しかしもはやその花瓶は何の意味も持ちません。
花瓶を叩き割り物語は終わるわけですが、花瓶を割るということは籟三の伝統工芸との、言い換えればもうこの世に必要のない技術(うもれ木)との決別ですね。
技術の発展によりすべてを失ってしまった籟三。時代の流れは残酷。悲しいけれどどうしようもない、そんな物語でした。
樋口一葉『うもれ木』をより深く味わうには
以上で『うもれ木』の紹介は終わりです。
樋口一葉の人生や時代背景について知ることができれば、『うもれ木』もより深く理解できるようになると思います。別途記事にしていますのでご参照よろしくおねがいします。