この記事では、樋口一葉の小説『暁月夜』のあらすじと感想、そして解説を書いています。月が見える夜明け前、恋を避ける少女とその少女に恋をした男の恋愛がクライマックスを迎えます。
樋口一葉『暁月夜』の概要
暁月夜とは、暁(夜明け)に月が残っている様子や夜明けの月そのものを指します。
暁月夜に、恐らくはお互い惹かれているであろう男女が別れを選択する(せざるを得ない)という物語の結末部分を象徴する題名となっています。
また、ヒロインの一重はある事情により「恋はあさましきもの」と恋愛を避けます。この表現は樋口一葉の日記にもみられる表現であり、樋口一葉の当時の恋愛観が主人公である一重に投影されているとも言われています。
樋口一葉『暁月夜』の人物相関図
『暁月夜』は、基本的に2人の男女の関係性の物語です。
両親を早くに亡くした(ある事情があるのですが)一重と、それに恋する学生の森野敏です。
樋口一葉『暁月夜』のあらすじ
香山家の屋敷に、一重という姉妹の中でも際立った美人が暮らしていた。一重は二十歳になるが、華やかな場所には出ようとはせず、一生一人で住みたいと願っています。
近くに一人暮らしする森野敏はこの令嬢の噂を聞き、いつかその理由を知りたいと思っていた。
ある日森野が学校の帰りに屋敷の門前でその姿を見かけると、その瞬間森野敏は一重に一目ぼれします。学校と下宿先には「療養のため」と言い、偽名を使い、敏は香山家の住み込み庭男となる。
一重の弟である9歳の甚之助と仲良くなった敏は、甚之助経由で一重に手紙を書く。しかし敏が何度手紙を送っても返事はない。
一重は手紙の封を開けずに置いていたが、敏の情熱に心が揺れていた。しかし、恋への未練を断ち切るため別荘へ移る決意をする。
出発の前夜、敏は一重の元に乗り込み、一重に対する思いを吐露する。が、一重は「恋ははかなく憎いもの」と言い、自らの出生の秘密を敏に打ち明ける。
一重は身分の違う父と母との間にできた子で、身分の違いのために両親は別れを余儀なくされていた。母は悲しみの果てに一重を産んで死に、父もその後を追い川に身を投げていたのである。
「恋は憎いものであるがゆえに、孤独な人生を望む」「咲かない桜は風を恨まない」と一重は敏に告げる。
暁の月の下で別れた二人であるが、その後の恋の行方はわからない。
樋口一葉『暁月夜』の解説と感想
屋敷に住む女性に一目ぼれをした学生ですが、その女性には恋愛をしたがらない深い理由があり・・というお話ですね。
何故美しい女性が恋をしたがらない、恋を忌避するのかは最後になるまでわかりません。
そのような構成であるため、読みながら「何故この女性は恋をしたがらないのか」という疑問を持ったまま読み進めることができました。
題名の『暁月夜』も美しく、夜明けの月の下、別れてしまう情景が目に浮かぶようです。
一重は「愛なんていらない」というわけですが、「愛などいらぬ」と言えば北斗の拳の「聖帝サウザー」を想起せざるを得ません。
サウザーは愛した師匠を、師匠とは知らずに自らの手で殺害してしまいます。そしてその師匠への愛が深かったが故に、自らの行為に苦しめられるわけですね。
そこで「こんなに苦しいのなら・・悲しいのなら・・愛などいらぬ」という名言が生まれるわけです。
『暁月夜』の場合は愛の深さゆえに悩むという話ではありません。
しかしながら人を好きになるということは、その思いが成就すればこの上ない喜びになりますが、その裏返しで想いが届かない場合には悲痛なものになることは、いつの時代も同じことなのでしょう。
『暁月夜』をより深く味わうには
以上で『暁月夜』の感想は終わりです。
樋口一葉の人生や時代背景について知ることができれば、『暁月夜』もより深く理解できるようになると思います。別途記事にしていますのでご参照よろしくおねがいします。